現代医療は身体の病気をもった人々の健康を回復させるために多大な貢献をしてきたが,それに伴い精神的関わりの重要性と必要性が増してきている.なぜならば,人間の生命は有限であり,病気や死に伴う恐怖や不安,悲しみ,死別による悲嘆といったものは,たとえどんなに医学が進歩しようともなくなるものではなく,先端技術に裏打ちされた医療にはより一層の精神面への配慮が求められてくるからである.

 すなわち,こうした生と死の問題やそれに苦しむ患者や家族の精神的ケアには,メンタルヘルスの視点に立った対応が不可欠なのである.また,それに携わる医療提供者や援助者の側における精神的問題についても,メンタルヘルスや死生に関する教育などの対応が求められる.これらのためには,各専門分野の緊密な連携は無論のこと,死生に関わる領域を扱う人文社会科学分野をも包摂した学際的かつ学術的な研究と相互交流によるきめ細かな実践とが必要になる.しかしわが国では,こうした取り組みはこれまで十分とはいえず,またそのための組織化も立ち遅れているのが現状である.

 そこで我々は,臨床の場における生と死をめぐる患者やその家族の精神的な苦痛や問題に焦点をあて,かれらを精神的に支え癒すための方策を,医療提供者や援助者の側の精神的問題をも包摂しながら,上記のような立場から幅広く研究,実践し,その教育を行うための学会をここに創設するに至った.

 したがって,本学会の主たる目的と意義は,たとえば,死にゆく者や死別に伴う悲嘆のケア,ターミナルケア,緩和ケア,難治性致死的疾患など日々死と隣接している患者やその家族のケア,脳死や植物状態による患者の家族のケア,災害など不慮の死による残された者のケア,身体の一部を喪失した人の精神的問題,致死的疾患の告知に伴う問題,自殺をめぐる問題,病気にまつわる生と死の問題,加齢や老化と死をめぐる問題,医療提供者や援助者に対する生と死の教育,死に関する社会的問題などに携わったり研究している者が一堂に会し,臨床の場における死生をめぐる全人的問題をメンタルヘルスの観点から学際的かつ学術的に研究し,その実践と教育を行うことにより,医療の向上に寄与することである.