大会長挨拶
第27回日本臨床死生学会年次大会によせて
この度は伝統ある日本臨床死生学会年次大会の大会長を仰せつかり、誠に光栄に存じます。開催にあたり一言ご挨拶をさせていただきます。
私は神経内科専門医、在宅専門医として主に神経難病を中心に37年間診療を続けてきました。その中で沢山の患者さんの生き死に関わらせていただき、多くのことを感じ、学ばせていただきました。時代の変遷とともに、生き死の在り方や告知を始めとした周囲の接し方も変わってきておりますが、「患者が“命を終えたい”と言ったとき」の対応は本当に難しいものがあります。
ここ最近でも福生病院の透析中止の案件、京都のALS患者殺害事件を始めとして慈悲殺と表現されるようなものまで、人の生き死に関する問題は大きな波紋を呼ぶことがあります。私たちがプロフェッショナルとして、また時には家族として、そして社会として、どのように対峙すべきなのかということを深く話し合う場が必要であると思っておりました。
この度の機会を頂き、是非この問題に焦点を当てて開催したいと考えました。いうまでもなく生き死にのなかで最も大事にしたいのはご本人です。最後まで少しでもご本人がこうありたいと思う姿に近づけるようにお手伝いすべきなのですが、昨今の「自己決定」は安易に扱われていないか疑問に思うこともあります。「自己決定」権がどのような経緯で確立されてきたのか、日本においていのちの自己決定はどうあるべきかについて、木村利人先生より特別講演をいただきます。
これからの日本の終末期は非がん疾患が主になることがわかっています。それぞれの臓器不全毎に少しずつ事情が異なりますので、心不全、呼吸不全、腎不全、それぞれの死生を語るシンポジウムとともに、救急の場も特殊ですので、救急医療の死生のシンポジウムを組みました。また、死生に深く関わる宗教家の方々や死生を扱う報道の方々からご発言いただくセッションも設けました。さらに、市民や学部において死生をどう学ぶかを実践者からご報告いただき、患者さんから学ぶ大変貴重なセッションも設けました。教育講演としては日米の経験をもとにエンバーミングやグリーフサポートについてお話いただきます。また会期中に総合診療医孫先生監督の「うちげでいきたい」を上映いたします。
本学会が「患者が“いのちを終えたい”と言ったとき」にどのように向き合えばよいのか、考えていくための手がかりになることを願っています。
2022年8月19日
第27回日本臨床死生学会年次大会
大会長 荻野美恵子
(国際医療福祉大学医学部
医学教育統括センター・脳神経内科学教授
市川病院神経難病センターセンター長)