第41回日本自殺予防学会

第41回日本自殺予防学会

会長挨拶

 2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる緊急事態宣言から始まり、収束が不明瞭な状況のため、秋に予定しておりました本大会を延期せざるを得ませんでした。参加を予定されていた皆さまには、深くお詫び申し上げます。
 ご自身、ご家族、お知り合いで濃厚接触や感染によりつらい体験をされた方には、心よりお見舞い申し上げます。また、COVID-19感染者の医療に従事されている方には、深く感謝申し上げます。

 COVID-19の対策をとって行動変容を心がけていても、クラスター発生が続発し、2021年1月には2回目の緊急事態宣言が発動されました。このように収束の見えない状況においても、教育・実践・研究活動の要としての学会活動を継続させる方法を模索し、今回はWeb開催とさせていただくことになりました。何卒ご理解の上ご協力賜りますようお願い申し上げます。

第26回日本臨床死生学会大会はテーマを「生と死をみつめる心、生き抜くことに寄り添うために」と設定しました。臨床の場における生と死をめぐる患者やその家族の苦痛や全人的問題に関して、「個人としての人間」と「社会の中の人間」の両方の観点から、探究していく場にしたいと思っております。人間はどのように生きどのように死んでいくか、そして死にゆく人にどのように向き合うか、どのように死者と向き合い追悼するか、という問いを過去の歴史や経験を手掛かりに紐解いていきます。また生き辛い時代のなかで人間が幸せに生きること/死ぬこと、生き抜くことに寄り添うということ、さらには患者やその家族を援助するということについて考えていきたいと思っております。

 我が国は、2010年から世界に先駆けて超高齢社会に突入し、2030年には多死社会の到来を迎えます。このような時代を見据えて、厚生労働省は地域包括ケアシステムの構築に取り組み、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を提示しました。これらは人の生き方に深く関わり、終末期ケア、看取り、ターミナルケア、グリーフケアといった命の原点に立ち返ることにも繋がるでしょう。

 一方、科学技術の発展、遺伝子レベルの治療を含む先端技術の進歩、価値観の多様化、家族の小規模化、老老介護や介護難民の問題、地域での人間関係の弱体化など、人が人を支えることに関わる課題が多様化しています。現代は共生する文化の形成、共生社会を創造することによって、他者との関係性を維持する社会の重要性が問われていると思われます。

 このような時代に、一度立ち止まって死生の問題を客観的に見つめることが必要であり、心の中の表出が問題の解決につながっていく重要な方策になるだろうと考えます。個人の生・生き方、死・死に様のみならず、家族の生・死、他者の生・死、そして、他者とともに生き傍にいること、生・命に寄り添うこと、それから、社会の中で生じる心の健康問題や心の揺らぎなどを多様な観点から、学際的かつ学術的に現実的な支援のあり方を一人ひとりが探究する機会となるようプログラムを設定いたしました。

 死生学にかかわるすべての分野の皆様のご発表・ご参加を期待しています。なお、この度の講演・シンポジウムは、一般の方もご参加いただけますので、ぜひご参加ください。 今大会が参加者の皆様のお役に立てることを心より願っています。

2021年2月1日

第26回日本臨床死生学会年次大会
大会長 浅野美知恵(東邦大学健康科学部教授)

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