しかしながら臨床現場では、スピリチュアルケアが患者や家族に届いていない現状がある。スピリチュアルケアを担うチャプレンがおかれている病院・施設の数はわずかしかない。また、スピリチュアルケアとは何かを理解しているスタッフも少ない。病院・施設の理念としてスピリチュアルケアを掲げて所も少ない。それがために、患者と家族が「どこでも、いつでも」スピリチュアルケアを受けられる状態にはなっていない。この問題を解決することが今回の学術大会の目的である。
そこで18回大会では、「スピリチュアルケアの実現に向けて―理論、実践、制度」と題して、三つの柱を立てた。スピリチュアルケアの理論的研究、スピリチュアルケアの実践報告、スピリチュアルケアを具体化するための制度的整備を追求する。
また本学会では、昨年の東日本大震災を受け止め、また今後のスピリチュアルケアの責務を思い、プログラムの中に、「東日本大震災を受け止めて」とのシンポジウムを設定した。
大会のゲスト講演者に、カナダ・ウエスレアン大学のポール・ウオン博士お招きした。ウオン博士は、ヴィクトル・フランクルのロゴ・セラピーの研究家・実践家で、意味中心カウンセリング研究所長(カナダ)。カナダのトロント大学で博士号(PH.D.)を取得。トロント大学、ヨーク大学、カルホルニヤ大学等で教鞭を取る。『意味への問い』の書物をはじめ、多数の論文を執筆。「国際実存主義心理学と心理療法」誌編集長を始め、「人間性心理学とグローバル・マネージメント」「ストレス医学」「カナダ行動科学」「死の研究」誌などの編集に携わっている。
今回の大会では、できるだけ多くの方の意見と参加を募りながら、大会を作り上げたいと考えている。企画委員を学会の内外に求めたのは、学術大会を幅広いものにし、臨床の場を視野にいれた研究大会にしたいからである。医療制度や経営的観点から、スピリチュアルケアについての専門家の意見も聞きたい。
その他、スピリチュアルアセスメントの問題、スピリチュアルケアの専門家不足(人材不足)、ケアの医療費支払制度の欠除(医療制度)なども大きな課題である。現在、スピリチュアルケアをめぐってこのような問題が課題となっている。
この大会には、看護師、医師、チャプレン、ボランティア、ソーシャルワーカー、行政官、宗教家、哲学者など広い人が参加できるものにしたい。
このような沢山の問題を今回の学術大会で扱いたいと願っている。
今日、日本ではスピリチュアルケアの理解に多様性がある。キリスト教的、仏教的スピリチュアルケアがそれである。しかし、一方で一般的に宗教を重視しない日本では一部のキリスト教病院や仏教立病院でしかスピリチュアルケアがなされていない。将来一般病院でもスピリチュアルケアが受けられるようになるためには、スピリチュアルケアの理解を宗教の枠を超えた枠組みを考える必要がある。おそらくそれは「魂へのケア」と呼べるかもしれない。患者・家族が主役になるケアのありかたである。宗教、心理学、精神医学が患者に仕えるケアが求められている。
日本でもいくつかの理論が出て来ているので、その検討も加えながら臨床に役立つスピリチュアルケアが構築されることを、今回の学術大会の目的にしたい。